就業規則等各種規程と労働問題

 就業規則、給与規程、退職金規程等の各種規程類をしっかり作成し、きちんと運用していけば大方の労働問題は、防ぐことができます。ただ、企業は杓子定規に法律を守っていたのでは、正直なところ経営は成り立ちません。しかし各種規程は当然、法律に違反することなく作成しなければならないものです。問題は、運用の面で、いかに社員とコミュニケーションをとりお互い折り合いをつけていくかです。企業とその社員が信頼関係で結ばれるためには、就業規則等各種規程の項目がどのような意味を持っていて、その項目ごとにどのような労働問題が世の中で起こっているのかを企業の人事担当者が知らなければなりません。企業の労務労働環境が乱れるかどうかは、その企業の人事担当者のレベル次第です。

就業規則等各種規程の法的拘束力

 就業規則等の各種規程(以下、就業規則等)については、その存在を軽視している企業が多く見られますが、このような企業では労務労働トラブルが頻繁に起こり、人事部等の部署ではそのトラブルの処理に追われ、本来行なわなければならない業務がないがしろにされます。結果として、社員のモチベーションは下がり、有能な人材の企業外への流失を招きます。就業規則は、会社が作る冊子であるから法的性質としてその拘束力は弱いものであると考えている企業経営者、人事担当者の方も多いと思いますが、それは大きな間違いであり、リスクマネジメントの視点から大変危険です。就業規則等の法的効力については、最高裁判所において次のように判断されています。

 就業規則は、その定めが合理的なものであるかぎり、法的規範としての性質を認められるに至っており、就業規則が労働者に対し、一定の事項につき使用者の業務命令に服従すべき旨を定めているときは、そのような就業規則の規定内容が合理的なものであるかぎりにおいて当該具体的労働契約の内容をなしているものということができる。

 企業は、社員入社時に労働契約を締結しますが、その際、労働条件を書面で明示しなければならない。と労働基準法第15条は定めています。大抵の企業は、労働契約書を社員と締結するか、労働条件通知書という労働条件を記載した書面を社員へ渡すなどの方法をとっているものと思います。ただ、この労働契約書あるいは労働条件通知書に記載されている事項は限られています。詳細については、各企業で作成した就業規則等によることになります。上記の最高裁の半旨から分かることは、就業規則等がなければ、社員に対して企業は具体的な業務に関する命令もできなければ、懲戒などの処分を行なうこともできないということです。就業規則は、企業と社員を法的に拘束する文書であり、労働契約そのものということになります。

法的位置付け

法令 ≧ 労働協約 ≧ 就業規則 ≧ 労働契約



就業規則の適正運営と社員モチベーション

 就業規則等は、労働基準法を中心として、労働安全衛生法、育児介護休業法、男女雇用機会均等法など法律に基づいて構成されています。これらの法律は、企業に最低限守ってほしいものとされていますが、これらの法律を完璧に履行することは、大企業であっても大変難しいものであり、中小企業であればさらに難しいものになります。何度も言いますが、杓子定規に法律を守っていたのでは企業経営など成り立ちません。今後も労働関連法規は、時代に合わせ頻繁に改正が行なわれていくと思いますが、コンプライアンスという意味は、企業外部から「あの企業は、法令を遵守しているな」と言われるより、企業内部の社員から「うちの会社は、法令を遵守しようと頑張っているな」と思われることの方が、企業経営上、はるかに重要です。企業として、就業規則等の規定と異なった対応をしなければならいこともあるでしょう。そのような状況が現出したときでも、就業規則等の運営をできるだけ適正なものに近づける努力をすることが、社員との信頼関係を構築し、業務へのモチベーションアップにも繋がっていくのです。


就業規則と労働事件

ア.試用期間

Q 試用期間3箇月で、ある会社に入社したのですが、「能力がないので正社員として正式に採用はしません」と言われ解雇されました。能力はないという抽象的な言い方をされただけで具体的な理由が明示されていません。これは不当解雇ではないですか。(社員から)
A 試用期間は、一般的には解雇権が留保された労働契約とされますので、企業には正式採用後よりも解雇権の行使について、裁量が広く認められます。広く認められると言っても、労働基準法の第18条の2は適用されますので、きちんした理由がない解雇は認められない可能性があり、解雇権の濫用として無効になる場合があります。「能力がないので解雇する」というのであれば、企業は、具体的にどう能力がないのかを明らかにしなければなりません。具体的に明らかにできないのであれば不当解雇になる可能性が高くなります。

労働基準法第18条の2
解雇は、客観的に合理的な理由欠き、社会通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして、無効とする。


Q 業務時間外に週1回研修会を行なっており、原則全員参加なのですが、強制ではありません。ある社員からこの研修は残業に当たるから残業代を払って下さい。と言われました。支払わなければならないのでしょうか。(企業から)
A 強制ではないとしても、原則全員参加ということであれば、業務との関連性は高いと考えられますので、残業代を支払わなければなりません。企業が残業代の支払い義務を否定する場合には、【研修会への参加は自由参加である】と明示し、実態としても自由参加である必要があります。


Q 私傷病で休職していた社員が、休職期間が満了しても休職前の業務に復帰する目途がたたないため、休職期間満了により労働契約を終了する旨通知しました。しかし、この社員から「休職前の業務を行なうのは難しいが、もう少し軽易な業務であれば行なえるので、継続雇用してほしい」との申し出がありました。このような場合、継続雇用しなければならないでしょうか。(企業から)
A 企業としては、この社員が言っている「軽易な業務なら行なえる」という健康状態の裏付けを取るために、医師の診断書の提出を求める必要があります。(診断書の提出については就業規則に明記すべきです)医師の診断も軽易な業務であれば復職可能ということであれば、復職の手続きをとるべきでしょう。職種が限定されている労働契約であったり、中小のため「経営に余裕がない。完全復職でなければ復職は難しい」という企業もあると思います。このような場合は、事案ごとに判断していく必要がありますが、原則的には、この社員を軽易な業務から復職させて、完全復帰が可能かどうかを復帰プログラムに沿って業務を行なわせた上で判断するという方法がいいでしょう。


イ.年次有給休暇等

Q 有給休暇を会社へ申請したところ、「今は忙しい時季だから有給休暇は与えられない」と言われました。会社が繁忙期という理由だけで、社員に有給休暇を与えないということは許されるのでしょうか。(社員から)
A 企業は、社員が有給休暇を取りたい日を指定してきた場合、その日を変更する権利はありますが、拒否する権利はありません。変更する権利についても「事業の正常な運営に支障がある場合」に限られます。「忙しい時季」だからという抽象的な理由では不十分であり、代替要員の確保等の努力をし、社員が有給休暇の取得できるよう十分配慮したが、それでも社員に有給休暇を取得されると業務に支障が出る場合に初めて企業の時期変更権の行使が認められると考えられます。


ウ.普通解雇

Q 経理部の担当社員が、基本的な業務について何度もミスしたので、注意指導を行なってきたが、全く改善が見られなかったため、勤務成績不良を理由に解雇しました。これに対し、この社員は不当解雇だとして解雇の撤回を求めてきました。今回の解雇は法的に問題があるのでしょうか。(企業から)
A 勤務成績不良により社員を解雇する企業は多いと思いますが、単に勤務成績不良では抽象的過ぎ、労働基準法第18条の2により解雇権の濫用とみなされ解雇自体が無効になる可能性があります。解雇は社員との労働契約を一方的に解除するわけですから、具体的にどう勤務成績が悪かったのかを示さなければなりません。また、企業が社員に対して勤務成績を向上させるための教育、注意、指導を行なったかどうかも重要な事項になります。
 つまり、社員に具体的な勤務成績の悪さとそれによって企業が受ける損害を示し、教育、注意、指導を行なってもなお勤務成績に改善が見られない状況であれば解雇は認められる可能性が高くなると考えてください。ご質問の内容からすると、勤務成績の悪い業務内容も「基本的な業務」とある程度具体的ですし、注意指導も行ったということですから、解雇は有効である可能性が高いと思われます。


Q 私傷病による休職からの復職にあたり、当社では、医師の診断を受け、その結果を会社へ提出することを規定しているのですが、該当社員が、医師の診断書を提出する義務はないとして、提出を拒否してきました。会社としては、診断書を提出しない以上、復職させることはできないと考えているのですが、問題があるでしょうか。(企業から)
A 休職している社員が、就労できるかどうかを判断するために、企業が医師の診断書の提出を求めるのは合理性のあるもので措置としては相当性があります。また、社員は企業の要請に応え、医師の診断を受け、診断書を提出する義務があります。もし、社員がこれに応じない場合は、復職させず労働契約を解除することもやむを得ないと考えれます。


エ.懲戒解雇

Q 学歴が大学中退であるにも関わらず、高校卒業と詐称していたことを理由に懲戒解雇されました。経歴詐称が悪いことであるということは分かっているのですが、入社以来、真面目に勤務し、会社の業績にも貢献してきました。懲戒解雇は重すぎると思うのですが、法的にはどうなのでしょうか。(社員から)
A 経歴詐称については、その詐称事実が「重大な経歴詐称」にあたれば、懲戒解雇は有効になる可能性が高くなります。「重大な経歴詐称」とは、現実に企業秩序の侵害が発生している場合であり、本当の経歴では入社できなかったにもかかわらず、経歴詐称したことで入社できたとすると、そのこと自体が企業秩序の侵害行為に当たることになります。ご質問でケースが、大学中退者であれば入社できなかったとすれば、懲戒解雇も有効ということになります。


Q 会社の許可なく商品を勝手に社外へ持ち出したり、上司からの業務命令に従わず、会社から作成を命じられた書類の提出も行なわない社員を、職場秩序を著しく乱したとして懲戒解雇したところ、解雇は重すぎるとして取り消しを求めてきました。このような場合、解雇は重すぎるのでしょうか。(企業から)
A 会社の商品を勝手に持ち出すのは、横領や窃盗にあたりますからいわゆる非違行為です。また、上司の命令に従わず書類の提出を行わないのは、業務命令違反になります。このような不正行為に対しては、企業の秩序を維持するため解雇も含め厳しい対応を取る必要があります。しかし、懲戒解雇はもちろん普通解雇であっても、解雇は究極の処分ですから具体的に不正の程度、企業が受けた損害の程度、業務命令違反の内容を慎重に精査した上で処分内容を決定すべきでしょう。


オ.異動、配置転換

Q ある社員に東京本社から名古屋支店への転勤を命じたところ、家族と別居しなければならないこと、経済的負担が増す等を理由に配置転換命令を拒否してきました。会社の業務命令に従えないというのであれば、解雇せざるを得ないと考えているのですが、解雇は可能でしょうか。(企業から)
A 会社員であれば、勤務地限定の労働契約でないかぎり、転勤を伴う配置転換があると考えるのが一般的です。社員の雇用を保障している代わりに企業には社員の適正配置という人事権が広く裁量として認められています。広く裁量として認められているといっても、その法的根拠は明確にしておく必要がありますから、まず、就業規則に転勤を命じることがあり、社員はこれに応じる義務があることを謳っておきます。こうしておけば就業規則を根拠に社員に人事権を行使することができます。ご質問の内容からすると就業規則に転勤に関する条文は存在すると考えられますから、あとは、配置転換の中味の問題です。企業の人事権の行使が濫用にあたるかどうかの判断基準は、

 1.業務上の必要性の有無
 2.企業に不当な目的、動機がないか
 3.社員の受ける不利益の程度が通常甘受できる範囲を超えているかどうか

の3点であると最高裁判所が示しています。家族と別居しなければならない、経済的な負担が増すという理由は一般的には社員が受ける不利益として、通常甘受できる範囲内のものであると考えられますから、このことを理由に転勤を拒否した場合は業務命令違反により解雇も可能であると思われます。ただし、企業としては名古屋に社宅を準備する、別居手当を支給するなどの配慮はした方がいいでしょう。


Q 東京営業所での限定勤務という条件で、ある会社に入社したのですが、入社して6箇月を経過した頃、「水戸営業所へ行って貰うことになった」と言われました。通勤時間も今の2倍はかかりますので、通うのは難しいのですが、会社の命令には従わなくてならないでしょうか。(社員から)
A 結論から申し上げると、転勤命令に従う必要はありません。東京営業所での限定勤務という労働契約を結んでいる訳ですから、企業側は、社員の同意なく転勤を一方的に命じる権利そのものがないことになります。入社時の労働契約締結の経緯を企業とよく話し合いその際の合意がどのようなものであったかをよく確認してください。


カ.出向、転籍

Q ある社員に関連会社への出向を命じたところ、「今回の出向命令は、業務上の必要性があるとは思えないので、応じられない」と言ってきました。出向先での労働条件に不利益はありませんし問題ないと思うのですが、本人から同意を得ることは必要でしょうか。(企業から)
A 就業規則に出向に関する規定があれば、原則的に社員は出向命令を拒否することはできず、企業は該当する社員から同意を得る必要もありません。出向に関しては、業務上の必要性は認められ易いと言えるので、これに関してはそれほど配慮する必要はありません。
 ただ社員への説明不足から誤解が生じ、労務労働トラブルへ発展することもありますので事前説明はしっかり行った方がいいでしょう。


Q 当社では、グループ企業間への転籍について、過去から現在まで親会社の人事異動と同様に取り扱い、頻繁に行なってきたのですが、ある社員から「グループ企業間であっても転籍には同意が必要である」言われ、転籍を拒否されました。社内での人事異動と何ら変わらない転籍であっても同意は必要なのでしょうか。(企業から)
A 転籍は、元の会社を退職し、新しい会社へ入社する訳ですから、原則は該当社員の同意がなければ実施することはできません。グループ企業間での転籍の場合は、

 1.グループ企業の人事管理を親会社が行っている。
 2.転籍が人事異動のように頻繁行われている。
 3.労働条件に何ら変更がない。
 4.業務上の必要性が明確である。

これらの要件を満たせば同意を得ていない社員の転籍が認められる可能性はあります。ご質問のケースは、同意が必要ない場合に当たる可能性はありますが、本人の同意がない状況で転籍を強行すれば、企業、社員にとってマイナスの結果しか残らないことが殆どです。企業の事前の配慮が非常に重要です。


キ.人事考課

Q 勤務態度が悪く、残業を全くせず、業務に非協力的な社員を昇格、昇給の判断において厳しく査定し、他の同年代の社員よりも昇格、昇給を遅らせたところ、この社員は公正公平な査定が行われず差別されているので、場合によっては損害賠償を請求すると言ってきました。
 業務に非協力的な社員と協力的な社員に昇格、昇給で何らかの差をつけることは、当然であると思うのですが、問題でしょうか。(企業から)
A 残業を全く行わないということは、状況によっては業務命令違反になる可能性があるものであり、企業に対する貢献度も低くなると考えられますから、昇給、昇格を遅らせるという査定は至極当然であり、合理性もあると言っていいと思います。ただ、査定基準をしっかり定めた上で人事考課を行い、第3者が見ても「不当な評価ではないな」と思われるようにしておかないと、不当な差別だとして社員から抗議を受け、損害賠償請求されることもあり得るので注意が必要です。


Q 勤務成績が悪いので、降格にともない来月から賃金を10万円引き下げると言われました。勤務成績については、他の社員の成績と比較しても決して悪いものではなく、むしろ上位です。人事担当者に「とても公正な評価による降格、降給とは思えないので、根拠規定を見せてほしい」と言ったところ、「暫く時間を下さい」という答えでした。根拠規定もなく、具体的な説明もせずに、賃金を引き下げることができるのでしょうか。(社員から)
A 降格に伴い、賃金の引き下げを行うとすれば、賃金規程等にその根拠規程が存在しなければなりません。企業には広く裁量権が認められていますが、賃金は社員にとって最も重要な労働条件ですから、降格された場合には賃金が引き下げられることがあるということを、社員が理解している必要があります。規程に明確に定めることは当然として、入社時の労働条件説明の際にも降格、降給することがあるということを入社する社員に伝えることは非常に重要です。
 ご質問のケースは、勤務成績も悪くないということですし、人事担当者がすぐに根拠規定を見せないなど不誠実な対応を取っています。また賃金の引き下げ額も10万円ということですから、事実関係から見れば人事権の濫用となる可能性は十分あると思います。


ク.賃金

Q 当社では、毎年4月に昇給を行なっているのですが、今年は、成績がよくなかった社員数名を昇給させませんでした。すると、この数名の社員の内1人が「毎年昇給してきたのに今年だけ昇給しないのはおかしい」と言ってきました。就業規則の昇給に関する条文には、【昇給は、基本給について、勤務成績が良好な者を対象に、毎年4月1日に行なうことがある】と記載されています。昇給させないことに問題はありますか。(企業から)
A 昇給に関しては、就業規則に必ず記載しなければなりませんが、必ず昇給させることを前提にしている訳ではありません。ご質問の就業規則の規定の仕方は【昇給を行うことがある】となっていますから、昇給実態が、どんなに成績の悪い社員でも毎年一定額の昇給が行われているなどの運用がされていない限り、誰を昇給させ、誰を昇給させないかは企業の裁量により決定することができます。


Q 工場では制服の着用を義務付けている会社なのですが、度々、制服を着用せず、再三の注意にも関わらず、私服で勤務をしていた社員に対し、就労を拒否し賃金を支払わなかったところ「会社の都合で働けなかったのだから、会社には賃金を支払う義務がある」として、未払い賃金を払ってください。と言ってきました。制服を着用することは、労働契約の一部だと思うのですが、賃金を支払わなくていけないのでしょうか。(企業から)
A ご指摘の通り、この場合は制服を着用することは労働契約の一部ですから、社員が工場で制服を着ることは義務であり、確実に履行しなければなりません。社員が労働契約に沿った義務を履行しないことで、企業が就労を拒否してもそれは企業の責任ではありませんから、賃金支払義務を負うことはありません。


ケ.割増賃金

Q 年俸制の会社で働いている者ですが、人事担当者から「残業代が年俸額の中に含まれている場合、会社は残業代を支払わなくてもいいことになっている」と言われました。本当でしょうか。(社員から)
A 年俸制の場合は、割増賃金を支払わなくてもいいと思っている企業がありますが、これは間違いです。年俸制を取ったからといって割増賃金の支払義務が当然に免除されるわけではありません。企業は社員に対して、年俸額の中の割増賃金額を事前に示した上で合意を得る必要があります。毎月の給与明細書の記載の仕方も通常報酬額と割増賃金額を分けて表記するべきです。ご質問のケースは、内容から判断すると割増賃金の請求は可能であると思われます。


Q 当社では、係長職以上の者には残業代を支払っていないのですが、先日、ある係長から「たいした権限もない係長に全く残業代が支払われないのはおかしい」と言われました。係長は、管理職という認識なので支払い義務はないと考えているのですが問題でしょうか。(企業から)
A 労働基準法第41条の2では、労働時間、休憩及び休日に関する規定を、事業の種類にかかわらず監督若しくは管理の地位にある者または機密の事務を取り扱う者には適用しない。と定めています。【この監督若しくは管理の地位にある者とは、一般的には、部長、工場長等労働条件の決定その他労務管理について経営者と一体的な立場にある者の意であり、名称にとらわれず実態に即して判断すべき者である】という行政通達も出されています。この基準から判断すると、一般的に係長は労働時間の適用除外者には該当しないと考えられますから、割増賃金を支払わなくてはならないと思われます。


コ.賞与

Q 当社では、賞与の支給については、賞与査定対象期間に在籍していたとしても、支給日に在籍していない社員に対しては実施しないことになっています。しかし、賞与支給日前に退職した社員数名から「夏の賞与は8月5日に支給されているが、給与規程には賞与は、7月および12月に支給する。と規定されており、7月31日に退職した社員は、賞与を受ける権利がある」と言ってきました。このような場合、支給日に在籍していなかった社員にも賞与を支給しなければならないのでしょうか。(企業から)
A 賞与の支給日在籍要件については、支給日に在籍していない社員には賞与を支給しないという規定が就業規則に記載されていれば、それが賞与の支給条件とみなされ、企業が賞与を支給しなくても労働基準法違反にはならないとされています。最高裁判所でも支給日在籍要件は合理性があるとされています。しかし、ご質問のケースのように7月に支給すると明確に定められている場合は、労働契約として企業は7月に賞与を支給する義務を負っていますので、8月に賞与が遅延したとしても7月の退職者には賞与を支払わなければならないと考えられます。


Q 会社から「経営状況が非常に厳しい状況なので、今回の冬の賞与は支給できない」と言われました。就業規則および入社時に会社と締結した労働契約書には、賞与について【夏期賞与は、基本給の1箇月、冬期賞与は、基本給の1.5箇月分を支給する】となっています。会社は、経営状況が悪いからといっていますが、新たな社員採用も行なっていますし、役員報酬のカットなどは行なっていません。これで賞与を払わないことが許されるのでしょうか。(社員から)
A 労働契約として明確に支給額および支給時期が決められている以上、企業経営に余程の予想できない不測の事態でも起こり、社員の同意を得ない限り、賞与を支給しないということは認められません。ご質問のケースは、支給時期が夏期、冬期ということで支給月が明確ではありませんが、前述の不測の事態が起こらない限り、遅延することすら難しいと思われます。


サ.退職金

Q 退職金制度のない会社なのですが、勤続期間中の成績が優秀で会社に多大な貢献をした者であると社長が判断した社員については、退職金を支給してきました。あくまでも社長判断で支給してきたものなので、特に退職金規程などは存在していないのですが、先日退職した社員から「会社業績に相当に貢献してきたと思っている。これまでも多くの社員に退職金を支給してきたのに、私に支給されないのは納得がいかない。早急に支払ってほしいと言ってきました」支払わなくてはいけないでしょうか。(企業から)
A 退職金規程は存在していないということですので、労使慣行として退職金支払の事実が法的効力を持つかどうかということになります。内容からするとこれまで、多くの退職者に社長判断で退職金を支払ってきたようですので、その支給条件が明確であれば労使慣行として企業の退職金支払義務が肯定される可能性はあります。最近の裁判例では、労使慣行が法的効力を持つには、該当する労働条件(今回の場合、退職金)について決定権ないし裁量権を有する者が規範意識を持ってこれに従っていたことが必要であるとしており、ご質問のケースでは社長がこれに当たりますので、企業としては該当社員の勤務成績を精査し、慎重に支払について検討しなければならないと思います。


Q 会社から、退職の際に業務の引継ぎをしっかり行なわなかったとして、退職金を支払わないと言われました。むろん業務の引継ぎは、手順に沿ってきちんとしておりますが、退職金規程には、業務の引継ぎを行なわなかった者に退職金を支給しない。という条文もありません。会社は当然退職金を支払うべきだと思うのですが、法的に見てどうなのでしょうか。(社員から)
A 退職金規程に【業務引継ぎを行わなかった者に退職金を支給しない】という条文が存在しないということですから、仮に社員が業務引継ぎを行っていなかったとしても、企業は退職金を支払わなければなりません。仮に不支給条文が存在していても、退職金は賃金の後払的性格と功労報償的性格を併せ持つものと考えられますので、その事由に合理性がなければ無効になる可能性があります。つまり社員の行為の企業に対する背信性が高いと認められる場合に初めて不支給が認められると思われます。